犬の涙やけに「手術」という新しい選択肢 ― 102例の技術報告に院長 村田結皆が参加しました

犬の流涙や涙やけに対する第三眼瞼腺組織の部分切除術
この手術を受けた犬102例を調べたところ、91例(89.2%)で流涙または涙やけの「消失または改善」が診療録に記録されていました。
さらに、手術前後の写真がそろっていた41例では、40例(97.6%)で涙やけの範囲が改善していました。
院長 村田結皆は、この技術報告の共著者として、研究デザイン、データ整理、写真評価、統計解析、報告書作成に関わりました。
これまで治療の選択肢が限られていた犬にとって、とても興味深い結果です。

ただし、この結果だけで、この手術の有効性や安全性が科学的に証明されたわけではありません。
今回の症例は、もともと研究のために集められたものではなく、日々の診療の中で行われた手術を、あとから振り返って調べたものです。
そのため、術前・術後の検査や記録、経過を確認した時期などが犬ごとに異なり、有効性や安全性を証明するために必要なデータが十分にそろっていませんでした。
今回分かったのは、「手術後に多くの犬で改善がみられていた」ということです。
今後は、検査方法や評価時期をあらかじめ統一した研究によって、この手術が本当に改善につながるのか、長期的に安全なのかを確かめていく必要があります。

「毎日、涙を拭いてあげてください」としか言えない犬がいました

犬の流涙には、さまざまな原因があります。
原因を調べ、できる治療を行っても、涙が止まらない犬もいます。

そのようなとき、
「これ以上できる治療はないので、毎日涙を拭いてあげてください」
とお伝えすることがありました。

私自身、この説明をするたびに歯がゆさを感じていました。
それが今の獣医学の限界だと分かっていても、毎日のケアを続ける犬と飼い主様に、ほかの選択肢を示せないことを申し訳なく感じることもありました。
そんな中で知ったのが、駒沢どうぶつ病院の田部久雄先生が行っている第三眼瞼腺組織の部分切除術です。

本当に新しい選択肢になり得るのか。

それを経験談だけで終わらせず、データとして確かめたいと考えたことが、今回の研究に関わった理由の一つです。
現時点では、標準的な治療として勧められる段階ではありません。

それでも私は、十分な検査や治療を行っても流涙が改善せず、毎日のケアが犬や飼い主様にとって大きな負担になっている場合には、分かっていないことやリスクを十分に理解したうえで、検討する価値のある選択肢の一つになり得ると考えています。

では、なぜ当院では今は行わないのか

今回報告した102例の手術は、すべてこの術式を考案した田部先生が行っています。

そのため、
「この手術だから良い結果が得られた」のか、
「田部先生の経験と技術があってこその結果」なのか、

まだ十分には分かっていません。

現在、当院の獣医師も田部先生から直接指導を受け、この手術の適応判断や手術手技について学んでいます。
それでも、当院では今はこの手術を提供しません。

私たちは、
「手術ができるようになった」ことと、
「患者さんに提供してよい」ことは同じではない

と考えているからです。

十分な技術や適応判断がないまま、この手術だけが広まれば、犬の安全を損なう可能性があります。
また、うまくいかなかったときに、手術そのものに問題があったのか、手術の方法に問題があったのかも分からなくなり、この治療の有効性や安全性を正しく評価することまで難しくなってしまいます。

新しい治療だからこそ、ちゃんと確かめてから届けたい

千歳船橋あむ動物病院は、新しい治療を早く取り入れることだけを目指している病院ではありません。
新しい可能性は否定しない。
でも、分かっていないことを「分かっている」とは言わない。

そして、
「できる治療」ではなく、「責任をもって提供できる治療」になってから患者さんに届ける。
今回の研究参加と技術習得も、そのための取り組みです。
今後、十分な技術を習得し、安全性を評価しながら責任をもって診療できる体制が整ったときには、当院での提供について改めて検討していきます。

詳しく知りたい方へ

駒沢どうぶつ病院による解説
https://www.komazawa-ah.jp/hospital/post-2819/
102例の技術報告
https://doi.org/10.5281/zenodo.22152150