猫の声の変化や呼吸音を評価する「喉頭エコー」―当院の症例報告が日本獣医がん学会雑誌に掲載されました

千歳船橋あむ動物病院の山田拓実獣医師を筆頭著者として、当院所属の獣医師8名で執筆した症例報告が、査読付き学術誌『日本獣医がん学会雑誌(Journal of Veterinary Cancer Society)』に掲載され、9月10日(木)にJ-STAGEで早期公開されました。

今回報告したのは、後に喉頭扁平上皮癌と診断された猫について、まだ診断が確定していない初期の病変から「喉頭エコー(喉頭超音波検査)」で継続的に観察し、病変が時間とともにどのように変化・進行していくのかを記録した症例です。

今回の論文で重要なのは、珍しい腫瘍を経験したことそのものではありません。

初期には腫瘍と断定できなかった喉頭病変を継続的に観察したことで、後に扁平上皮癌と判明する病変が、喉頭エコー上でどのような変化を示しながら進行していくのかを記録できたことに大きな意義があります。

さらに、その経時的な超音波所見を内視鏡検査や病理学的所見と照らし合わせました。

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猫の「声が変わった」「呼吸すると音がする」――喉頭の病気が隠れていることがあります

猫の「鳴き声が変わった」「声がかすれる・出にくい」「呼吸するとゼーゼー、ヒューヒューなどの音がする」「以前と違う呼吸音がする」「呼吸が苦しそう」といった症状には、さまざまな原因があります。

心臓や肺の病気だけでなく、空気の通り道である「喉頭」に異常が生じていることもあります。

喉頭は体の奥にあるため、通常の診察やレントゲン検査だけでは、初期の小さな変化や、呼吸に伴う喉頭の動きの異常を十分に捉えにくいことがあります。

そこで近年、犬や猫の喉頭を詳しく評価する方法として発展しているのが「喉頭エコー」です。

喉頭エコーでは、レントゲンでは評価しにくい軟部組織をより細かく観察できるだけでなく、声帯や喉頭を構成する軟骨が、呼吸に合わせてどのように動いているのかをリアルタイムで確認することができます。

そのため、レントゲンでは捉えにくい喉頭の異常や、呼吸に伴う動きの変化に気づく手がかりになる可能性があります。

一方で、異常が見つかったからといって、すぐに原因まで分かるとは限りません。

喉頭炎などの炎症性疾患や感染症、腫瘍性疾患は、特に初期には似た症状や画像所見を示すことがあり、一時点の検査だけで区別することが難しい場合があります。

だからこそ、必要に応じて時間を追って変化を確認し、内視鏡検査や組織検査など、ほかの検査と組み合わせて評価することが重要になります。

喉頭エコーの大きな特徴は「繰り返し観察できること」

喉頭エコーは、首の表面から超音波を当てて行う検査です。

喉頭の形態だけでなく動きまで観察できることに加え、動物への負担を比較的抑えながら、必要に応じて繰り返し評価できることも大きな特徴です。

近年の猫の研究では、喉頭エコーで確認された病変の形態や喉頭の動きの異常が、内視鏡検査で確認された所見とよく対応することも報告されています。

一方、犬や猫の喉頭エコーは、腹部や心臓の超音波検査と比較すると、まだ十分な情報が蓄積されているとはいえない分野です。

「どの病気で、どのような画像がみられるのか」だけでなく、「その画像が時間とともにどのように変化するのか」についても、現在進行形で知見が積み重ねられています。

今回の症例で、診断確定前の初期病変からその後の変化を追跡できたことも、こうした喉頭エコーの特徴があったからこそです。

今回の論文で分かったこと

今回の症例では、まだ喉頭扁平上皮癌と診断されていない段階から喉頭エコーを行い、その後も継続して観察しました。

その結果、病変の進行に伴って、以下のような超音波所見の変化を記録することができました。

  • 声帯の肥厚
  • 喉頭を構成する軟骨の動きの異常
  • 病変の拡大
  • 気道が徐々に狭くなっていく様子
  • 喉頭病変と周囲の病変との連続性

さらに、それらを内視鏡検査や病理学的所見と照らし合わせることで、エコー画像で観察されていた変化が、実際の病変とどのように対応していたのかを検討しました。

これまでにも猫の喉頭を超音波で評価した報告はありましたが、主に一時点での画像所見を評価したものでした。

今回の症例では、後に扁平上皮癌と判明した病変を初期から継続して観察していたため、喉頭の腫瘍性病変が時間とともにどのような超音波画像の変化を示すのかを記録することができました。

著者らが調べた範囲では、猫の喉頭扁平上皮癌について、喉頭エコーによる経時的な変化を追跡し、病理学的所見と対比した初めての報告となります。

日々の診療から得た知見を、次の患者さんへ

動物医療には、まだ十分な情報が蓄積されておらず、「この画像をどのように解釈すればよいのか」「この病変がこの先どのように変化するのか」に明確な答えがない領域もあります。

当院では、一頭一頭の患者さんを丁寧に診療するだけでなく、そこで得られた情報を記録・検証し、必要に応じて学会発表や査読付き論文として共有することを大切にしています。

それは学術的な実績をつくるためだけではありません。

得られた知見を当院だけの経験に留めず、ほかの獣医師とも共有し、将来の患者さんの診療へ還元していくためです。

千歳船橋あむ動物病院では、新しい検査だから使うのではなく、「その検査から何が分かり、何がまだ分からないのか」を理解したうえで、目の前の患者さんに必要な医療を選択することを大切にしています。

これからも、日々の診療と学術活動の双方を通じて、誠実で根拠に基づいた獣医療を積み重ねてまいります。

本症例にご協力くださった飼い主様へ

今回の症例報告では、診療の経過だけでなく、亡くなった後の病理解剖(剖検)についても、飼い主様のご理解とご協力をいただきました。

そのご協力があったからこそ、生前の喉頭エコーや内視鏡検査で確認していた変化と、実際の病変を詳しく照らし合わせることができ、今回の知見を論文として残すことにつながりました。

大切なご家族の診療、そして病理解剖にご理解とご協力を賜りました飼い主様に、改めて心より感謝申し上げます。

今回得られた知見を、これから診療する動物たちと獣医療の発展に活かしていくことが、私たちにできる恩返しの一つだと考えています。


掲載論文

「喉頭超音波検査で経時的変化を追跡し、内視鏡および剖検所見と対比した猫の原発性喉頭扁平上皮癌の1例」

掲載誌:日本獣医がん学会雑誌(Journal of Veterinary Cancer Society)
筆頭著者:山田 拓実
著者:千歳船橋あむ動物病院所属の獣医師8名
DOI:https://doi.org/10.12951/jvcs.2025-017


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